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INTERVIEWインタビュー
世界Tech企業 INDIA①

急成長を遂げるインド最新トレンド

世界Tech企業 INDIA①

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※下記はTech通信Vol.07(2018年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

爆発的な人口増加と若者の多さ スタートアップが生まれやすい土壌

 スタートアップ企業といえば長いことシリコンバレーがその中心だったが、中国の急成長によって中国のスタートアップ企業がフォーカスされた時代があった。そしていま、インドでスタートアップ企業が急増しており、世界中のグローバル企業がインドのスタートアップ企業に投資するようになっている。なぜいまインドなのか。

 東南アジアなど8ヵ国で投資実績をもつ、リブライトパートナーズのシニアアナリストのIshizaki氏は、近年のインドの成長ぶりを数字によって明らかにする。

 「インドの2016年のIT・BPM産業規模は約1,430億ドルで、日本円にすると約16兆円になります。日本の情報サービス産業がおよそ20兆円弱ですから、それに近い規模です。注目すべきは今後で、インド政府は2020年までのこの分野を3,000億ドル(約33兆円)と、いまの2倍近くの規模まで成長させるとしています。インドのIT・BPM産業は、今後もものすごい勢いで伸びてくのは間違いないと思います」

 スタートアップ企業への投資・育成に特化したベンチャーキャピタルのインキュベイトファンドのMurakami氏も、インド市場の可能性に目を見張る。

 「インドは6~7%程度の高いGDP成長率を誇り、なおかつ爆発的な人口増加、人口ピラミッドにおける若年層の多さ、大都市圏への急速な人口流入などが特徴的です。

 これらは、『これから伸びる市場』『これから伸びるスタートアップ企業』を考えるうえで非常に重要な意味をもちます。所得水準の向上によって、生活必需品以外に使える所得が増えると、ほしいモノの質の変化によって若者のライフスタイルも変化していきます。そこで急成長する市場があるでしょうし、そこにテクノロジーがかけ合わさることによって、劇的に変わりえる可能性を秘めています」

スマートフォンの急速な普及と超格安通信でインド社会が変わる

 このように急激な成長を遂げ、さらにダイナミックに伸びていきそうなインドにおいて、スタートアップ企業も急増している。Ishizaki氏によると、インドのスタートアップ企業の数は4,700~4,900社ほどあり、アメリカの5万社超には及ばないものの、イギリスの4,900~5,200社に次いで世界で第3位の規模だという。

 また、企業の評価額が10億ドル以上で非上場のベンチャー企業である、いわゆる「ユニコーン企業」は、全世界に215社にあるが、アメリカ107社、中国56社に次いで、インドは10社で3位になっている。「 このことからわかるのは、スタートアップ企業数が多いだけでなく、大きな成功を成し遂げている企業も多いということです。ちなみに、2015年のインド国内のスタートアップ企業の資金調達額は90億ドル(約1兆円)を超えました。ちなみにこの数字は日本の約8倍になります。2012年がわずか8億ドルでしたので、たった3年間で10倍以上も資金調達額が増えたことになります」

 Murakami氏は、インドのスタートアップ企業は今後ますます増えると予測する。その理由のひとつとして挙げるのが、OPPO、VIVO、シャオミなどの中国製の廉価な製品による急速なスマートフォンの普及だ。

 さらに、リライアンスJIOという財閥系キャリアが開始した超格安データSIMの普及による4Gでのモバイルインターネット人口の急速な伸びは、インドのスタートアップシーンを大きく変化させていく可能性が高いという。

 とくにJIOは、インドのデータ通信を8割安くしたともいわれており、4Gのデータ通信を70日間で105GBも使えて349ルピー(約600円)で、1ヵ月間で2GBの容量でよければ98ルピー(約170円)で使えたりと、世界でもデータ通信が指折りに安い国になっている。

 「 これにより、『インターネットに初めて常時接続するのはモバイルで』という層が急速に発生しており、新たなビジネスチャンスを生んでいると思われます。つまり、パソコンの時代を飛ばして猛スピードで成長できる。たとえば、モバイルゲームや動画ライブストリーミングなどのモバイルコンテンツ系のスタートアップなどは、これからインドにおいて“初めて"伸び始める可能性があると感じています」

スタートアップ企業に投資する各国のグローバル企業

 このように、数多くのスタートアップ企業が誕生し、そこに膨大なお金も集まっているインドだが、それを支えているのがグローバル企業の存在だ。

 いま、インドにはマイクロソフト、IBM、インテル、Google、アクセンチュアなどの数多くの多国籍IT企業が拠点をかまえている。アクセンチュアは13万人、IBMにいたっては15万人もの従業員を雇用しており、さらに、マイクロソフトをはじめ、多くのグローバル企業がスタートアップ企業に数多くの投資を行っている。

 Ishizaki氏は、グローバル企業がインドのスタートアップ企業に投資する理由は、「人材」「技術」「マーケット」の3つだと語る。「 新興国でこの3つがそろっているところは非常にめずらしいんです。まず人材では、インドは520万人ものソフトウェアプログラマーを有しています。もちろんこれは世界最大です。グローバル企業のCEOも数多く、有名なところでは、マイクロソフトのCEOのSatya Nadella氏、GoogleのCEOのSunder Pichai氏などがおり、『CEO輸出大国』ともいわれています。また、いま、世界中の注目を集めているのがインド工科大学です。ユニコーン企業の創業者の多くはインド工科大学を出ており、同大学卒業生には世界中のIT企業が群がってくるほど人気です」

 2017年のインドの人口は13億3,900万人で、中国の14億1,000万人に肉薄している。2024年には14億4,000万人になって中国を抜いて世界1位になるとされている。マーケットとしては非常に有望なのだ。24歳以下の若者の割合は全人口の半分近くにも達し、インターネットの人口も過去5年で30%以上伸びている。「 インドで特徴的なのは、インフラがまだ整っていないことです。たとえばクレジットカードの普及率は5%もありません。そのため、それを飛び越えてスマートフォンを使ったモバイルウォレットが普及しています。また、インフラが少ないので先進国のような規制が少なく、遠隔医療やIoTなどのイノベーションが生まれやすい土壌があるのです」

 Murakami氏も、「インドはまだ多くの非効率を抱えた国であり、そこには多くのビジネスチャンスが埋まっている」と指摘する。

 「 圧倒的に小規模事業主(SME)が多く、いまだにテクノロジーやインターネットの恩恵を受けておらず、旧来的で非効率な業務を行なっています。仕入れ業務や在庫管理、CRM、ワークフォースマネジメント、給与計算や会計などが紙やエクセルでアナログに管理されており、それらをテクノロジーで変革していく余地はまだまだ大きい。SMEの業務効率化の領域は、スタートアップ企業にとっては魅力的な事業領域であると考えています」

伸びそうなスタートアップ企業は大きく2つの特徴がある

 さまざまなスタートアップ企業が誕生しているが、Murakami氏は、「個人的には」と断りつつ、伸びそうだと感じるスタートアップ企業創業者の特徴として、「若くしてIITなどの一流大学を卒業し、急速に伸びたスタートアップの初期社員としての経験がある経営陣」と、「とくにB2Bにおいては関連する事業領域である程度の経験をもった35歳以上の経営陣」を挙げる。

 「 成長性やスタートアップとしてのあり方について、前職のスタートアップ企業で急速な変化を目の当たりにしていると、それらと比較して『こんなものでは自分たちはまだまだダメだ』と自分で自分にハッパをかけてくれるイメージがあります。つまり、初期段階から目線を高くもってくれるということです。なぜ35歳以上かということですが、インドはさまざまなところに非効率が見つかるので、一見するとビジネスチャンスがころがっているように思えます。逆にいうと競合も生まれやすい世界でもあり、そのときに、自社の事業領域についてどれだけ深い洞察とネットワークをもてているかが勝負のわかれ目になると思っています。その点において、ある程度年齢が上であっても、豊富な事業経験をもっていてくれるほうが安心感があります」

先を行く中国が今後のインドのモデル 今後深まるであろう「日印」関係

 今後のインドを見ていくうえで、先に進んでいる中国を見ることが重要とMurakami氏はいう。

 「 インドは中国から7~8年遅れて進んでいるというイメージをもっています。巨大な人口と急速な経済成長という2点において、インドと中国は類似している国であり、『中国でなにが起こったのか?』『このモデルは中国で成功している、あるいはしつつあるのか?』は参考になることが多いです。実際に、我々が投資を決める際にも、中国の類似モデルを参考にすることがよくあります」

 日本企業によるインドのスタートアップ企業への投資も増えており、遠隔医療サービスを行うDocsApp、ラストマイル物流の効率化を図るLetsTransportなどは、日本企業も投資に参画している(詳細は「世界Tech企業 INDIA②」)。

 経済産業省は、IoT分野の投資を活性化させるために、『日印・IoT投資イニシアティブ』を推進しており、日本とインドの企業のマッチングなどを行っている。

 2000年代、あらゆる分野で日本にとって中国の存在が欠かせなくなったように、日本にとってインドの存在が欠かせなくなる日も、もうすぐそこまで来ているのかもしれない。

インドの農業は特殊な状況下に置かれている。そのため、日本にはない発想によって、スタートアップ企業が新たなビジネスを始めるケースが多い。インドの農業に詳しいインキュベーター企業である、ANEWホールディングスのSakaguchi氏に話を聞いた。

低い生産性、遅れている機械化 だからこそ期待できるイノベーション

 最先端のITを誇るインド。その一方で、インドでは人口の約半数のおもな生計は農業だ。生産性は先進国より30~50%も低く、機械化も遅れている。そして、農作物の品質や物流・倉庫などの利便性が悪いため、農作物の40%が消費者に届くまでに劣化しているという。

 「このような、農業を取り巻く問題をICTによって解決しようというスタートアップ企業が生まれています。その代表的な例がFaaS(Farm as a Service)と呼ばれるビジネスモデルです。小規模な農家に対しトラクターなどの農業機械を使用量に応じて貸し出し、トラクターの貸出時間や運行状況をセンサーなどを使って管理することで、Uberのような利便性と、農地のデータ活用を合わせて提供するモデルです」

 日本の安全・安心の品質管理や、コンビニに代表される流通システムは非常によくでてきているため、インドにおいて、求められる質と量の農産物を、求められるときにいかに届けるかという課題を解決するために、日本企業が培ってきたノウハウや技術が求められている。「食品加工や物流の技術にくわえ、IoTやAIなどと組み合わせることでイノベーションを生む連携に、日本企業の可能性があると思います。たとえば、最近インドの農業省が募集している内容から、表のような課題を解決する、スタートアップ企業によるイノベーションが求められています」

 ANEWホールディングスはインド大手のステンレスメーカーと提携し、農家とスタートアップ企業のマッチングを行うことで社会的インパクトをもたらし、貧困農家の収入向上とともに、持続可能な農業システムの構築などをめざしている。

 インドのスタートアップ企業による「農業革命」が始まろうとしている。

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