[前編]インドVCに聞く② Aarin Capital&3one4 Capital
AarinCapital Co-Founder and Chairman TV Mohandas Pai / 3one4 Capital Founding Partner Pranav Pai
―インドのスタートアップエコシステムではMohandaさんの事を知らない人はいないみたいですね?バックグラウンドを教えてもらえますか?
Mohandas:2011年にインフォシスを退社するまで、同社でCFOを12年務めていました。証券市場のメディアが運営するベストCFOにも3回選ばれました。
私が入社した1994年頃は、会社も時価総額100MUS(1億ドル)、年商5MUSドル(500万ドル)、従業員数も500名規模でした。それが、退社する頃には、時価総額35BUS(350億ドル)、年商6.5BUSドル(65億ドル)、従業員は13万人になっていました。
―まさにインフォシスの成長を体感されてきたのですね。それで、スタートアップ投資の世界に入ったキッカケは何だったのですか?
Mohandas:インフォシスの仕事と並行して、政府から、ビジネスエコシステムをより良くするために、政策委員会に入ってほしいと要請がありました。また、政策の提言だけでなく、政府が運営する1.5BUSドル(15億ドル)ファンドのボードメンバーとしても活動することに。2011年にインフォシスを退社してからは本格的に投資の世界に足を踏み入れ、ヘルスケア、教育、ライフサイエンスに投資するファンドをパートナーと共同創業しました。その分野では、当時としては1番大きなファンドでした。そのファンドの投資先には、成功を手にしたスタートアップが多く誕生しています。
その一例ですが、インドのオンライン学習アプリ「BYJUS」をご存知ですか? 900万ダウンロードされ、45万人以上の生徒が年間利用料として、1万ルピー(1万7,000円)を支払っているアプリです。Facebook創業者のマーク・ザッカーバーグが投資したことで一躍有名になりましたが、ほかにもセコイア・キャピタル、テンセントから投資を受けており、インドを代表するEduTechのユニコーンです。私たちは、ここの初期投資家でもあります。当時20MUSドル(2000万ドル)の時価総額だった同社の株式のうち30%を持っていました。現在の時価総額は1.3BUSドル(13億ドル)です。
ほかにもNasdaqに近々上場予定の創薬スタートアップもあります。35のスタートアップ投資のほかに14のファンド投資をしています。ファンド投資のエリアは、インド、東南アジア、アメリカをカバーし、出資するだけでなく、投資のボードメンバーとして関与しています。14のファンド投資を通じて、累計266投資を行いました。これは450MUSドル(4.5億ドル)の投資に相当します。2,500社の投資案件が毎年私たちのところにきています。
―お話を聞いているとスタートアップ投資というよりも、スタートアップのエコシステム全体に投資しているという発想に近いですね。
Mohandas:私が投資をし始めた2011年は、まだまだスタートアップ投資をする人間が少なかった。起業家を投資して育てると同時に、投資家にも投資をして彼らのサポートをしてきました。そうすることがインドのスタートアップエコシステム全体のすそ野を広げることになり、繁栄に繋がると思っているからです。
インドでは成功すると、「社会の役に立つ」「社会に還元する」という考えを持つ人が多いです。私も自分自身の知見を共有したり、時間が許す限り起業家の相談に乗っています。投資事業はリターンを出すことは第一ですが、同時に社会の繁栄のために自分が何をできるのかも考えて行動しています。
―2011年から投資を始めたMohandasさんに、インドの次の10年を予測していただきたい。
Mohandas:2017年のインドのGDPは、2.6TUSドル(2兆6,000億ドル)です。ただ13年後には、10TUSドル(10兆ドル)を超え、GDPにおいて世界1位になると言われています。また、昨年(2017年)時点で、インドスタートアップの数は32,000社で、95MUSドル(9500万ドル)相当の時価総額を上げ、40万人の雇用をつくっています。2025年には、スタートアップの数は10万社、500MUSドル(5000億ドル)の価値(時価総額)、3500万人の雇用を生むと言われています。昨年時点で、37.5BUSドル(375億ドル)の投資がインドのスタートアップ界隈でされました。私は7年後には、これが80BUS(800億ドル)規模になると思っています。
―スタートアップの世界におけるインドのポジショニングはいかがですか?
Mohandas:インドは世界で最もITソフトウエア開発会社が密集している国です。8万社近くあり、122BUSドル(1220億ドル)の売上を上げています。従業員もアメリカ600万人に次ぐ450万人規模。ITアウトソーシング会社の時価総額においては、世界のトップ10社のうち、5社はインド企業です。
今後、スタートアップエコシステムのハブ拠点として、世界では5エリアに分かれると思います。アメリカ(シリコンバレー)、ヨーロッパ(ロンドン、ベルリン)、イスラエル、中国、インドです。なかでも、中国、インド、アメリカがこのスタートアップにおけるハブとしての地位を確立するでしょう。中国は革新的なインターネットサービスを生み出しながらも、基本は国内市場に目がむいています。一方、インドは、国内のみならずグローバル市場にも目がむいています。
インドは今後7年間で大きな躍進を遂げるに違いありません。毎年5,000社のスタートアップが生まれてくると予想します。そのうち、1,500社は資金調達を受けるでしょう。大きなスタートアップエコシステムが生まれるはずです。
―成長していくインド市場に対して、日本企業はどのような関わり方をしていくべきですか?
Mohandas:これまで日本は、インドをあまり見てこなかったと思います。地理的に中国の方が近いこともあり、中国に比べ、両国の民間企業同士の交流は少なかった。スタートアップ投資においても、VC・ファンドは来ていますが、大手からの投資はこれからのステージだと思っています。
従来の日本の大手は工場や会社を現地に設立し、社員採用して、軌道に乗ってから、他社との提携や、イノベーション投資を行ってきた。ただこれでは遅い。私が現在手がけているように、大きめのファンドをつくり、複数のファンドに投資をして、そのファンドが持ってくるトップのスタートアップに投資するべきです。例えば、25社に投資するファンドに10社投資したら、250社の情報が手に入ります。そのトップ10社に次のラウンドで直接投資すればいいのです。
インド市場を外部の人間が理解するのは時間がかかります。ですから、ファンドに投資をしてから直接投資をするのが一番有効的だと思います。私自身がアメリカのファンドにも、中国のファンドにも投資しているので、説得力あるとは思いませんか。
―オススメのインドファンドはありますか。メッセージもお願いします。
Mohandas:身内の話になりますが、私の息子達が運営するファンドはオススメです(笑)。
Paranav:父からも今、紹介がありましたが、私はこれまで45以上のアーリーステージのスタートアップ投資をしてきてきました。幸い、多くの投資先は次のラウンドに進み、多くのリターンを期待できます。
私が日本に来た目的は、新たなファンドの資金調達というよりも、我々の投資先の価値を上げてくれそうな戦略的パートナーと出会うためです。
例えば、Liciousという、お肉をオンラインで買えるスタートアップがあります。当初は、飲食店や食料品店に対してお肉の加工、販売、配達をしていました。そこで培ったノウハウを駆使し、一般消費者向けにも販売するようにしたところ、良いお肉が、希望通りに加工して届くという評判が広がり、一般消費者からにも支持を受けました。この会社は、2015年設立ですが、私達が投資してから、社員数も350人を超え、企業価値も16倍に成長しています。
こういったスタートアップに、さらなる企業価値を付加してくれるパートナーを探しています。日本企業は、オペレーションの部分が優れているので、長期的な関係を築くことで、資金だけではない価値を提供してくれると期待しています。
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