[前編]イベント仕掛人に聞く
日本とインド間のスタートアップ投資交流は、まだ序章の入口。
2017年のインドの国内総生産(GDP)は2兆6110億ドルで、米国、中国、日本、ドイツ、英国に次ぐ世界第6位であるが、上位5ヵ国が前年比ほぼ横ばいに対し、インドだけが唯一成長しており、2018年度には英国を抜くのは確実視されている。インドの人口は、現在13億1000万人と推定されており世界第2位だが、2024年頃までには中国を追い越すと予想されている。インドは、今や中国と並ぶアジアの大国である。
日本とインド関係は極めて良好で、政治面においては、2005年より両国首相が毎年交互に相手国の首都を訪問するという関係性だ。お互いを「特別戦略的グローバル・パートナーシップ」の関係であると公約している。また経済面でも、インド初となる高速鉄道の建設で日本の新幹線方式が採用されることが合意されている。そして、前置きが長くなってしまったが、スタートアップ界隈においても、両国でスタートアップ・VC交流が始まろうとしている。
2018年4月20日、インドのトップVC・スタートアップ関係者40名が来日して、インド企業による28社のピッチが行われた。ピッチの後は、インドスタートアップへの投資に興味のある日本企業との懇親会が開催されている。そこで今回、この両国間のスタートアップイベントを取材。主催者と来日したVCに話を聞いた。
インドは、オープンイノベーションの舞台としても、市場としても魅力的な国
―今回、日本-インド間のスタートアップイベントを開催してみた手応えはいかがですか?
Misra:今回のイベントのためにインドからVC、スタートアップ合わせて、計40名近くが自費で日本に来日してくれました。日本側も、VC、企業、政府関係者を合わせて205名が集まってくれました。日本で開催するインドスタートアップイベントとしては過去最大規模だと思います。私が1990年にインドからの国費留学生として来日してから、「日本はインドと、もっと深くパートナーシップを組むべきだ」と政府関係者、大企業に言い続けてきました。そのたびに、手応えのなさを感じていました。ただ今回、インドのスタートアップと、日本の大手とのパートナーシップイベントを開催してみて、手応えを感じています。まさに今が、日本にとっても、インドにとってもベストなタイミングだったのだと。
藤永:イベント開催のタイミングとしては良かったと思います。日本でも、ここ数年、オープンイノベーションのムーブメントが大企業間に起きています。日本の大手は第一に、シリコンバレーでスタートアップとの連携を模索します。次にイスラエル、中国もにらみながら、ここ最近では市場としても大国になったインドとの連携をしていきたいという声をよく聞くようになりました。
―今回、スタートアップイベントを開催した背景を教えてください。
Misra:それには、私と日本とのつながりを最初に話させて下さい。私は1989年にインドから国費留学生として、東京大学の大学院に入学しました。当時の日本は、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われ、製造業が世界中に製品を輸出していました。日本で学ぶことは当時、一番の憧れだったのです。私は応募者35万人の中から、わずか1名の留学生枠に選出。日本行きの切符を得たのです。
大学院卒業後、私はソフトウエアの会社を起業し、40歳になった時に会社を売却。生きていく上では十分なお金を得ました。そこで会社売却後は、もっと社会のために生きようと思ったのです。現在、インドで十分に教育を受けられない子供のための支援の傍ら、カーネギー財団インド支部のIT政策のアドバイザーを務めるなど、自分の経験、知見を広く社会に活かした活動を続けてきました。そんなとき、平松駐インド大使から、「是非、小さい形でも良いから、日本とインド相互に民間同士の交流を企画してほしい」と言われたのが、今回のイベントのきっかけです。藤永さんとお会いしたのもその時でした。
藤永:当社は日本の上場企業に投資する機関投資家の立場で、年間1,000社近くの企業訪問をしています。ここ数年で日本企業も投資余力がついてきて、次のビジネスになりえる機会を探っています。インドは毎年9%の経済成長を続けており、なかでも中間層の国民所得が伸びている。おまけに世界3位のスタートアップ立国でもある。しかし、日本からみるとインドの情報はまだ少ない。情報ギャップを埋めていきたいと思い、当社は3年前からインドに人を駐在させ、現地でのネットワークをつくってきました。そんななかで、Misraさんからイベント開催のお話を頂き、当社のネットワークを活かせるのではないかと思ったのです。
―次回に向けての課題も含め、今後のヴィジョンを教えてください。
Misra:まず問題点からいいます。インドにも日系のVCが数社ありますが、規模が圧倒的に小さい。10億円のファンドなんて、何もできませんよ。せめて、100億~300億円のファンドにしないとインドでは存在感がないです。小さいお金を投資しても、リターンが低いです。私から日本企業への要望は、大企業はお金がないことはないのだから、もっと大きなお金を投資してください、ということ。100億円の投資をすれば、今ならインドでも目立ちます。インドの投資マーケットの方が日本より大きくなってから投資しても、タイミングは遅いのです。今のうちに、お金を持って、インドマーケットに入ってきてください。
今度は、インド側への要望です。まだまだ日本にとって、インドの印象は弱いです。象や牛が歩いているイメージかもしれません(笑)。インドの大手VCには、日本にプレゼンしに来るように伝えました。日本は、大手に対しては信用します。まずは、インドの大手VCと日本の大企業がパートナーシップを組むことから始めるのが良いと思います。
藤永:私は前職、日本のVCに勤めており、10年前からシリコンバレーを訪問していました。ただ10年前のシリコンバレーでも、日本は各国から出遅れていました。昔も今もシリコンバレーでは、インナーサークルに入れてないままです。
インドは、シリコンバレーと同じ位のインパクトを持っています。そして、今、タイミング的には、ようやく日本でも「これからだ」という機運が生まれています。ただ、世界からみたら、やはり出遅れています。世界のグローバル企業は10年前からインド投資、進出をしています。とはいえ、私はまだ日本がインドのインナーサークルに入るチャンスはあると思っています。シリコンバレーと同じ失敗をしないためにも、私たちも日本の上場企業への働きかけをしていこうと思います。
概要 | BTTI(Bengaluru Tokyo Technology Initiative 2nd Summit) 2018年4月20日(金) |
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主催 | Carnegie India、公益財団法人笹川平和財団 |
運営協力 | ANEW Holdings株式会社 |
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