ワイヤレス電子楽器を開発した音楽系スタートアップ
夢とビジョンがあるからなんどでも起業できる
Miselu inc. CEO 吉川 欣也
ふだんはiPadのカバー。取り外してスイッチを押すと、鍵盤がせり上がり、まるでピアノのように演奏できる。シリコンバレーのスタートアップ、Miseluが開発したワイヤレスMIDIキーボード『C.24』だ。画期的な楽器を生んだ同社CEOの吉川氏は、じつはこれが3度目の起業になる。なぜなんども起業に挑むのか、同氏に聞いた。
だれでも手軽に楽しめる 軽くて薄い鍵盤楽器
―『C.24』を開発した理由を聞かせてください。
より多くの人に楽器を演奏することを楽しんでもらいたいという想いからです。既存の楽器は大きくて重いものが多い。置く場所に困ったり、もち運ぶのが大変だったり。それに演奏方法を学ぶのに費用と時間がかかる。そんな制約から、楽器をもっていない人は多いでしょう。「でも、iPadはもっている」。そんな人のために『C.24』を開発したのです。iPadのカバーとして使えるほど、軽くて薄い。取り外すとボタン1つで鍵盤がせり上がってくる。専用の無料アプリ「KEY」をダウンロードすれば、キーボード演奏ができるのです。
―開発ではどんな困難がありましたか。
小型化・軽量化しつつもアナログ楽器に近い使用感を出すことです。演奏者がピアノをひいているような感覚をもたせるために、複数の特許取得技術をもちいています。たとえば光センサーで演奏者が鍵盤を押す強さを検出して、それを音の強弱に反映する。また、バネではなく磁石の反発力を使って鍵盤を押すときの重さを指先に感じられるようにしています。
―困難を乗り越えて、開発に成功した原動力はなんでしょう。
夢とビジョンですね。プロジェクトには波があって、大変なときもある。そのときにプロジェクトをドライブするのって夢なんです。それがないと「もうやめた」っていうふうになってしまう。私たちの場合、「シリコンバレーにひとつくらい、楽器メーカーとして世界一になる会社があればおもしろいかもしれない」という夢が原動力でした。
―御社はKickstarter上のクラウドファンディングなどから資金調達に成功しています。
はい。夢をもち、もう片方でその夢をちゃんとビジネスにする必要があります。インベスターに対してお金をちゃんとリターンする。メンバーにちゃんと給料を出し続ける。そのために、きちんとお金を回収していかなくてはならない。夢とお金の話がバランスよくできているのがシリコンバレーですね。
ハイテクのメジャーリーグで勝負したかった
―吉川さんがシリコンバレーに来た理由を教えてください。
とても単純で、「ハイテクのメジャーリーグ」であるシリコンバレーにあこがれていたからです。私は20年前、まだインターネットが普及途上にあったころに、ルーターをあつかう会社を起業しました。国内である程度の成功をおさめたのですが、どうせなら世界一になりたい。そう思って、シリコンバレーに渡り、会社を立ち上げたのです。その後、大企業に約5000万ドルで売却。うまくEXITできました。
―そして2008年に3度目の起業としてMiseluを設立したのですね。起業に関心をもつ若者にメッセージをください。
こちらに10年近くいて気づいたことがあります。それは、VP(ヴァイス・プレジデント)のタイトルをもっている日本人が思ったより少ないことです。日本の優秀な学生たちがハーバードやスタンフォードなどへ行って、MBAをとってほしい。そして、こちらでガツガツと中国人やインド人たちに混じってエグゼクティブへはい上がっていく姿をみたい。起業家はゼロを1にするのが仕事。でも、1を2にしたり、2を10にしたりして、起業家をサポートできる人がもっといなければいけない。シリコンバレーにVPのタイトルをもった日本人役員が増えてくれば、結果的にシリコンバレーで起業する日本人も増えていくと思いますよ。
吉川 欣也(よしかわ よしなり)プロフィール
1967年、愛知県生まれ。1990年に法政大学法学部法律学科を卒業後、日本インベストメント・ファイナンス株式会社(現:エヌ・アイ・エフSMBCベンチャーズ株式会社)に入社。その後、株式会社プロトコルを経て、1995年に株式会社デジタル・マジック・ラボを設立。1999年にシリコンバレーに渡り、IP Infusion Inc.を設立。同社のCofounderand VicePresidentを務め、2005年に同社を売却。2008年に3度目の起業としてMiselu Inc.を設立し、CEOに就任。
企業情報
設立 | 2008年4月 |
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事業内容 | 電子楽器の開発・製造・販売 |
URL | http://miselu.com/ |
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